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僕の作品の中では比較的オーソドックス、悪く言えば超ありがちなホラーです(苦笑
『呪殺』by KOUSUKE vs Forneus
関東のT県の山の奥に、伏貫村(フシヌキムラ)と言う、小さな農村があったそうな。
この、伏貫村と言う村。周囲を淡いピンク色の花を咲かせる桜の茂る山に囲まれているため春は美しい物の隣村との交通の便は無く、
村にはエンジンで動く乗り物が存在しないため、村外へ出る為には歩いて一山越えなければならなかった。
つまり、村民達の生活は自給自足。田圃で稲を育てて米を得、畑で野菜を育ててはそれを喰い、他にも川で魚を釣って食ったり、
作物が不作に終わった時は山で猟人の真似をして、イノシシを撃ち殺して喰らってみたり、熊を殺して喰らってみたりしていた。
そんな村に、一組の若夫婦が居た。
夫の方は星川 六助(ホシカワ ロクスケ)と言い、妻の方は理紗子と言ったそうな。
この六助と言う男は25歳、整った顔立ちできりりとして格好良く、顎髯を蓄えているのだが、これが何とも言えぬ美髯で、彼をより一層ダンディに見せていた。
また、理紗子は24歳で、身長は高く、体つきは神話の戦女神の様に美しく痩せているが、顔には穏やかな可愛らしさがあり、村で一番の美人だったそうな。
そんな、村の美しい物同士の結婚には、誰も反対する者はいなかったそうである。
そんな二人には子供が居なかった。
二人は特に気にしてなかったが、周りの人間達はそれを一種の不幸と思いこんでいるようで、無駄な心配のあまり色々な物を、(と言っても、余った野菜ばかりだが)を与えたりしていた。
そんなこんなで、二人は食い物には困っていなかった。
だが、野菜ばかり食っていると、当然その味に、たとえば火の通った白菜の仄かな甘みだとか、大根の絶妙な辛みだとかにも飽きて来る訳で、
二人には野菜以外の物も食いたいという、ある種の欲望が募っていた。
しかし、米だって倉庫に俵が数え切れぬほどある。魚だって川に行けば釣れる。だのに、彼等は何故かそうしようともしなかった。
それは、簡単に手に入るためである。
つまり、彼等は簡単に手に入らぬ食い物を求めていたのだ。
簡単に手に入らぬ物。スーパーマーケットなど無いこの村では、やはり牛やらイノシシやらの肉であろう。
しかも、六助は猟銃と言う物を持っていなかった。これでは猟人の真似事は出来ない。
鍬やら鋤やらでイノシシや熊と闘うのは危険過ぎる為、猟銃を使って撃ち殺すのだが、彼等はその術すら無いのだ。
だから、二人とも肉の味に憧れを抱いていたに違いない。
しかし、彼等は実に身近に肉がある事に気が付いた。
それは、狩などできぬ者でも簡単に手に入れられる品であった。
だが、並の人間はそれを喰らう事はまずない。おぞまし過ぎて食えないだろう。
しかし、悲しいかな、六助と理紗子の欲望は、ついに人間としての理性をも壊してしまい、二人を獣へと変貌させた。
そう、彼等は人間の肉を喰らう事を思いついたのだ。
ある夜、二人は広場で行われている村の祭りに出かけていた。
村中に提灯の明かりが点り、村に唯一の寺には壮大で色とりどりの美しい飾りが付けられ、豪華な金ぴかの山車物を一目拝もうと人々が集まっていた。
この祭りは、この村独自の物で毎年行われ、豊作の年は山々の神々に感謝し、凶作の時は来年こそは、とお祈りする。
そんな祭りの時に、二人は自らの欲望を満たすための獲物を探していたのである。
そんな六助と理紗子の元に、一人の、これから起こる運命も知らぬ、哀れな男の子が近付いてきたのだ。
恐らく6、7歳位だろう。親に作ってもらったのだと思われる白い法被を着ているのだが、何故だか祭りには目もくれず頻りに地面ばかりを気にしながらうろうろしている。
その子供は二人の存在には気づいていない様だったのだが、理紗子は近くをうろうろしている彼に話しかけた。
「坊や、どうしたの?」
すると、その子供は彼等に気づいたようで、照れながらこう言った。
「さっき、集めてたビー玉を落としちゃって。転がって行ってどこか行っちゃったんです。」
そこで理紗子が穏やかに、裏に潜む感情を見せないように微笑みながら。
「じゃあ、私達も探して上げる。でも、転がって行ったならここら辺には無いんじゃない?もっとあっちを探してみようよ。」
理紗子は、広場の向こうの森の方を指差した。
「うん。わかった。ありがとう。お姉ちゃん。」
そう言うと、3人は人気の無い森の方へ歩いて行った。
今、3人を除く全村民は広場での盛大な神々へ捧げる祭りに酔いしれている。
無論、こんな青々と木々の茂る森の中へ入って行った理紗子や六助、この不幸な少年の事など気にとめた者は居なかった。
「そう言えば、君の名前はなんて言うの?」
理紗子は、相変わらず愛想良い微笑みを見せ、この男の子に訪ねた。
「僕、島岡 陽太郎(シマオカ ヨウタロウ)っていうんだ。」
「陽太郎君…。じゃあ、陽ちゃん。て、呼んで良い?」
理紗子はそんな会話をしつつも、六助の方を向くと眼で何かを言い合った。
そして、次の瞬間である。
「うぐぐ…」
理紗子が、正面から陽太郎の、か細い首を手で絞め、持ち上げたのだ。
美しき鬼女が獲物を仕留めるかのように…。
やがて、彼女に首を絞められ、不幸にも首の骨を砕かれて殺されてしまった陽太郎。
幼い子の死体を未だに、天に捧げる様にしている理紗子は、彼の死を確認すると初めて嫌らしい笑顔を見せた。
「六助さん。この子、死んだわよ。」
「そうか。じゃあ家に持って帰って早速喰らうとするか。」
そう言い、理紗子は死体を抱えて、六助は手ぶらで自宅へ戻ったのである。
理紗子は家に着くなり、台所へ駆け込み、まな板の上に陽太郎の死体を乗せ、包丁を取り出した。
そして、陽太郎の死体から衣をはぎ取り、まず、腹に包丁を差し込んだ。
六助は風呂釜で陽太郎の衣類を焼いていたのだが、肉の裂ける音と、流れ出す血の臭いを嗅ぎつけた所為で、
未知の食材に心が踊り出し、その興奮を抑える事が出来ずに、台所に入ってしまった。
そして、腹の裂かれた無残な陽太郎の姿を見て、六助は全身の血の気が引くのを感じたが、それと共に彼の中の興奮は勢いを増した。
それでも、万が一と言う事を考え、声を潜めて、
「理紗子。こいつはどのように調理してやろう。刺身か、煮るか、焼くか。」
六助の声に、理紗子も微笑んで、それでも声をひそめて
「肉は焼くのが一番らしいわ。でも、家には鉄板も無ければ金網も無いわ。どうしましょう…。」
「じゃあ、生で食うか。それとも鋤焼き(農具の鋤に食べ物を乗せて焼く料理のこと)にするか。」
「まず、生でいってみません?それで不味かったら鋤焼きにしてみたり、味醂や醤油、砂糖で煮込んでみましょうよ。」
「鰻みたいに蒲焼ってのはどうだ?結構美味いと思うぜ?」
「うーん…。魚肉とは質が全然違うから、美味くいく自信は無いけどやってみるわ。」
潜々とした話を終えると、理紗子は陽太郎の死体から肉をはがし始めた。
まず、右腕の肉を骨から引き剥がすと、水の溜った桶で血を洗い、それを刺身の様に数切れに切り分け、青い塗物をした焼き物の皿に盛りつけた。
それを掘り炬燵の御膳の上に置き、木の粗末な箸二膳と、小皿と醤油を持ってきて六助に差し出した。
そして、二人はまず、陽太郎の右腕の刺身を口に運んでみる。
だが、六助が眉を顰める。すると、理紗子も首を少しかしげた。
「あまり美味い物じゃないな…。」
「そうですね…。やはり火を通した方が良いのかしら。」
どうやら二人の舌には人間の生肉は合わなかったらしく、切り分けられた数切れはしっかり食った物の、その味に満足はしていないようだ。
そこで、今度は左腕の肉を引き剥がし、味醂や醤油で作られたたれをつけて鋤や鍬に乗せて火を通す。
蒲焼、と言う奴だろうか。
さて、それが焼き上がると、また包丁で切り分け、さらに持って出してみた。
六助はそれを喰らってみたが、途端に彼の顔が微笑みに変わった。
「これは美味い。やはり肉は火を通した方が良さそうだ。理紗子も食ってみろよ。」
陽太郎の左腕の肉の蒲焼を進められた理紗子はその家の一切れを口に放り込んだが、急に微笑んで、
「凄い。凄い美味しいわ。何て美味しいの…。」
驚きと言うより、感動に近いその声。美麗な鬼女と美男子の姿を借りた悪魔の夫婦はその味の虜になってしまったようだ。
「ねえ、他の調理法も試してみる?」
「そうしよう。今日はこの少年の肉を豪勢に喰おうか。」
理紗子は腕によりをかけて、陽太郎を捌いた。
脚の肉を剥がし、粉を塗して油で揚げ、唐揚げの様にしてみたり、挽き肉にしてたれで和えてみたり、内臓を野菜と共に炒めてみたり、終いには頭を鍋に入れ、醤油や味醂で煮付けてしまった。
御膳の上は、まるで和風旅館の晩餐の様になってしまった。
しかし、そこにある料理達は刺身などでは無い。陽太郎と言う不幸にも命を奪われてしまった少年の肉で作られた、悲劇と狂気の御馳走なのだ。
だが、「いただきます」と、鬼女と悪魔は声を合わせていい、その不幸な少年を「美味い美味い」と喰らい始めた。
六助に至っては、煮付けられている最中で目玉の取れてしまった陽太郎の頭を見ながら、からからと笑い、汚らしくその頬を箸で削っては食い、削っては食いを繰り返し、
台所から包丁を持ってきて頭を割り、脳味噌まで喰らい始め、挙句の果てには鍋の中に転がっていた目玉まで喰らってしまうという始末であった。
こうして、陽太郎と言う少年は、この鬼共によって殺され、その肉を食いつくされてしまったのである。
「凄く、美味しかったわね。」
「ああ、何とも言えない味だったぜ。」
二人がその肉の味をそんな風にまとめた所で、六助が声を出した。
「そう言えば、後に残った屑はどうするんだ?」
その問いに、理紗子は冷静に答える。
「砕いたりした後に風呂窯で焼いてしまいましょうよ。焼けたら庭に埋めてしまえばいいわ。」
この意見に、六助は賛成した。
「家の倉庫にでっかい木槌があったはずだ。あれで何度もたたけば砕けるだろう。」
次の日、村は陽太郎の失踪の話で持ちきりだった。
こう言う小さな村では、どんな事件でも、例えばちょっとした傷害事件でも、あっという間に広まってしまう。
まして、今回は失踪だ。小さな村ではこんな大事件は滅多に起こる事では無い。
あっという間に村人たちはこの失踪事件に支配され、村を元気に走り回る子供の姿は無くなり、大人達は陽太郎探しへ駆り出された。
しかし村人達は、その中に混じっていた六助と理紗子の腹の中に陽太郎が収まって居ることなど夢にも思わなかったのだろう。
この日一日で、村の至る所はつぶさに調べ上げられた。
あの、広場の向こうの森やら、村を囲っている山々やら、村人の家の隅々も調べられたけれど、ついに陽太郎は発見されなかった。
流石に、土の中までは調べられなかったのである。
それに、調べられたとしても、もう陽太郎は灰同然の姿になってしまっているのだ。
誰がその灰の山を陽太郎と見定められるだろうか。
そんな事、彼の実の親でも不可能であろう。
それに、こんな小さな村には警察犬なんて物も無ければ、微量の血でも反応して光るような、ルミノールと呼ばれる便利な薬だってないのだ。
それでは、灰の粉を人間と判断する事は、例え村ぐるみであろうとも無理なことである。
さらに言わせてもらうと、この村での捜索と言うのは数だけで内容は杜撰。台所に血の付いている家も何件かあったが、
家主に「川で釣った魚を捌いていた。」と言われて「はい、そうですか。」で片づけてしまっていた。
だから、土の中まで調べるという発想すら出なかっただろうし、都会から警官を呼ぶような事も無かった。
結局、陽太郎は祭りの途中で山に入り、そのまま迷子になって隣の村まで行ったのだと片付けられてしまった。
その内、隣村から迷子の知らせが来るだろう。村の役場の連中はそう言い放った。
その言葉に、陽太郎の両親は怒りや悲しみの感情を露わにしていたけれど、それとは正反対に六助と理紗子は、顔では不安がる様子を作っていたけれども、心の中で大笑していた。
二人が陽太郎の肉を喰らって暫くの月日が流れ、もう村の者どものほとんどが陽太郎の事を忘れた頃、それまで綺麗に痩せていた理紗子の腹が、少しずつ膨らみ始めてきていた。
それに、いつも好んで食べていた大根漬けを急に食べなくなったり、匂いに敏感になり出した。
その様子を見ていた六助は、不安感と期待感の混じった感情を催し、理紗子を村の医者に診てもらった。
すると、彼女は何と妊娠していたのである。
村ではいつかの失踪事件の様に、この理紗子の妊娠の話題でもちきりとなってしまった。
無理も無い。村で一番の美男子と美女の夫婦に子供が出来たのだ。
それに、この二人は長い事子供が出来ず、不幸な夫婦の烙印を押されかけていた。そんな二人の間に子供が出来たのだから、村は歓迎の色に染まりつつあった。
そのせいで、二人の家には毎日毎日、祝いの品がまるで家を破裂させるが如く、それはもう山の様に送られてきた。
白菜、大根、米俵に川で獲れた大きな魚、イノシシの干し肉等、食い物類が多かったが、村にある寺のお守りやらを持ってくる物も居たりした。
そんな物たちに囲まれて、二人は生まれ来る子供の事を思いながら幸せそうに暮らしていた。
さらに月日は流れ、ついに理紗子が子を産んだ。
少し大きめの、全身が真っ赤なその赤ん坊は、母親の胎内から姿を現すとともに元気良く、大声で泣きはじめた。
その声に、六助も理紗子も安堵した。
立ち会っていた医者がその子から臍の緒を切ると、理紗子や六助に向かって微笑みながら、
「元気な男の子ですよ。大事に育てて上げてくださいね。」
と言い、その赤ん坊を抱き抱えると、六助に渡した。
それを見て、まるで何物にも代えがたい宝を手にしたような顔をして、安堵の息を吐いたのだった。
その日の夜までに、元気な赤ん坊の名は決まった。
『龍哉(タツヤ)』。龍と言う字を使ったのは、龍の様なとても体も人間的にも大きくなってほしい。そんな願いが込められたからであろう。
この名前は、六助が考えた物だったが、理紗子はこの名に大賛成した。
こうして、悪魔と鬼女はその血を引く子を産んだ。
この、龍哉と名づけられた子が、後々に引き起こす事も知れず…。
7年の歳月が流れた。
六助は齢32となったが、その男らしさと顔の良さは衰える事無く、果物が熟すように、7年の間により一層増したようだった。
理紗子の方も、齢31となったが、産後太りも無く、美しい体つきは維持したままだし、優しそうな顔も健在であった。
とても、三十路を越えた者とは思えなかった。
そして、龍哉も7歳となった。
どちらかと言えば母親に似たのか、とても優しそうな顔つき。しかし、少しきりりとした所は父親に似たのだろう。
身長も、7歳の少年としては高かった。これも母親譲りだろう。
最も、六助も身長は高かったので、これは両親の血をバランスよく受け継いだ結果だろうか。
両親の美しき容姿を受け継いだ龍哉。しかし、何故だか知らないが、彼の微笑む顔は実に無気味であった。
まるで、何か恐ろしい事を考えているような、人の心に底知れぬ恐怖を植え付ける様な笑顔を時折見せるのだ。
やはり、一人の少年を殺して喰った悪魔と鬼女の間に生まれたために、血と共にその禍々しい事測り知れぬ邪気をも受け継いでしまったのだろうか。
いや、もしかしたら六助や理紗子に勝る、思わず顔にまで出してしまうような邪気を母親の胎内のどこかで得てしまったのかもしれない。
「龍哉はいったいどうして、笑った時だけ何か不気味な気配を出すのだろう。」
「さあ。この年頃は悪戯盛りだから、仕方ない事なんじゃない?」
六助も理紗子も過去に犯した殺人の事はすっかり忘れているようで、ただただ眺めているだけであった。
二人の目線の先には、そんな不気味な笑顔を浮かべて積み木を積んでいる龍哉の姿があった。
その日の夜の事。3人は同じ部屋で川の字になってぐっすりと眠っていたのだが、不意に龍哉が起き上がった。
顔には、満面の笑み。だが、その所為で彼からは禍々しい気配が色濃く放たれており、それが夜の青みがかった闇に混ざり一層強い物としていた。
そんな事は露知らず、龍哉はその足で用を足しにでも行くのかと思いきや、両親の様子を伺うような素振りを見せると、何と台所に向かったのである。
そして、まるで夢遊病者か禍々しい快楽を求める殺人鬼の様に台所の収納棚を漁り始めたのだ。
「龍哉。何をしているの?」
その、不可解過ぎる音に目が覚めた理紗子は、半起きの目を擦って台所へ向かった。
後から同じ様に眠たそうな目をした六助が付いて行ったのであるが、この二人は台所の光景を見て思わず目を見張った。
なんと、幼子の龍哉が右手に固く包丁を握りしめ、その不気味な笑顔で、そして殺意の籠ったような視線を六助と理紗子に向けていたのである。
「龍哉!止めなさい!」
二人とも、先ほどまでの泥沼に沈みかけた様な眠気は一瞬に吹き飛び、理紗子はそう叫び声をあげた。
すると、龍哉は何と勢いよく包丁を一振りしたのである。
理紗子も六助もその様子に怯み、脚が竦んでしまった。
その様子を見た龍哉は、さぞ愉快そうに話を始めた。
「僕の名前は、島岡 陽太郎。お姉ちゃん達に殺された子供だよ。覚えてる?」
島岡 陽太郎。その名を我が子から、いや、我が子の姿をした陽太郎本人から聞かされた時、二人は7年の昔に犯した殺人事件が心と脳味噌を真黒に染めていくのを感じた。
そして、急に罪悪と恐怖に駆られ、全身の毛と言う毛が立ち、鳥肌が立ち、まるで氷柱を脳天にでもぶっ刺されたような冷たさに体中を支配され、二人とも床へ崩れ落ちた。
そんな様子を、龍哉、いや、陽太郎はさらに愉快そうに眺めていた。
「僕を殺して、僕から肉を引き剥がして、焼いたり、煮たりして、それでとっても美味しそうに、食べてたよね。お姉ちゃんと、お兄ちゃんは。」
そんな言葉を聞かされても、六助と理紗子は周章狼狽するばかり。
あの事件の後に生まれた龍哉が、あの人肉を喰らった出来事を知る筈は無い。
いや、その事は二人共、既に記憶からほぼ完全に抹消していたのだ。
だがしかし、今、目の前に居る龍哉の姿をした悪魔は何者だ。何故あの事件を知っているのだ。
そう思うと、二人はこの恐怖色の怪事を夢か真か計りかね、いよいよ大乱心し混乱を起こした。
「でも、僕はこうして生まれ変わった。そしてちゃんとお姉ちゃんから生まれた。お姉ちゃん達を殺すためにね。」
目的の達成を目前とした陽太郎の顔は、もはや悪魔その物で、二人はただただ混乱し乱心し、周章狼狽するのみだった。
全ては、7年前のあの時から始まっていたのだ。
あの時、二人が喰らった陽太郎は、それぞれの歯で噛み千切られ、胃袋の運動で胃酸と混ぜられ消化され、腸に取り込まれ、それぞれの血と化し肉と化し、
しかし彼の強い怨念が自らを理紗子に身籠らせたのだ。
そして、彼は新しく得た体で、怨念を晴らすべく、こうして包丁を握り二人の命を奪おうとしているのである。
「ふふふ。」
陽太郎はそんな風に小さく笑うと、包丁を握りしめ、恨みが籠りに籠った視線を六助と理紗子に浴びせると、そろりそろりと一歩一歩、まるで過去の罪を責める快楽を味わう様に、
そして、死への恐怖を二人に染み込ませ甚振る様に近づいた。
だが、六助も理紗子も思考は大混乱を起こしており、大罪を詫びればいいのか、逃げればいいのかと、何をして良いのか分からず、
体の方は、禍々し過ぎる恐怖と呪縛の為に、まるで脳天から床までに太い鉄釘を打ち込まれた様に固まってしまい、瞬きする事も、口を動かして喋る事もできなかった。
「殺してあげる。」
陽太郎は、崩れ落ち、膝をついている二人の命乞いをするような顔を見て、宵闇に浮かぶ人を狂わせる月の様な、この日一番の微笑みを見せた。
『呪殺』終。
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後書。
何か、某ホラー文庫に9割9分9厘ありそうなお話になってしまいました(苦笑
オーソドックスな復讐ホラーに僕の大好きなカニバリズムを合わせた短編ゴースト?ホラーです。
では。
<Forneus>
題材やあらすじはほぼ全てForneus氏に作ってもらったので、私は描写や台詞しか考えていない。
つまり、何とも言い様がないのだが、ひとこと言わせてもらうと表現が中々難しい小説だった。
また、一文一文を長めに書いたので、テンミリオンの小説に慣れている人間にとってはさぞ読みづらいであろうが、文庫本などを好んで読む人間には丁度良いか、物足りなく思うかもしれない。
私はこのような小説の方が読み応えがあって好きなのだが、それは人それぞれか。
さて、私が合作に参加すると、何故毎回人肉食が絡むのであろうか。
<KOUSUKE>